BDOが、IFRS解説文書2024/07を発行しました。これは、2024年5月に公表された、IASB「金融商品の分類及び測定の修正―IFRS第9号及びIFRS第7号の修正」(以下、本修正)の解説になります。
基準の修正概要は以下の通りです。
IFRS第9号「金融商品」
(1)金融負債の認識の中止
金融負債の認識の中止は原則として決済日(義務の免責、取消し、失効等が生じた日)に行います。但し、電子送金システムを通じて決済する場合、以下の要件を充足すれば決済日より前に金融負債の認識の中止を容認する修正を行っています(B3.1.2A項、B3.3.8項)。
企業が支払指示を行い、かつ以下のすべての要件を満たしている。
・企業が支払指示の撤回、中止または取消しを行う実際上の能力を有していない
・支払指示の結果として、企業が現金にアクセスし使用する実際上の能力を有していない
・電子送金システムに関連した決済リスクが僅少である
(2)金融資産の分類の明確化―ESG連動要素を含む金融資産
金融資産の分類時に考慮すべきキャッシュ・フロー要件(当該金融資産の契約上のキャッシュ・フローが、特定の日に生じる元本及びその元本残高に対する利息の支払のみであるか:以下「SPPI要件」)の評価について、ESG事項に関連した金融商品に焦点をあてた修正を行っています。
ESG事項に関連する金融資産には、例えば契約で定める目標炭素排出削減量について、その債務者がその目標削減量を達成した場合に金利の調整が行われる商品があります。このため、SPPI要件の充足の有無に関して、以下の観点からの検討が必要である旨の修正を行っています(本解説文書で設例及びフローチャートを使い解説しています)。
・企業が受け取る利息について、当該利息は基本的な融資のリスク(信用リスク)及びコストに対する対価か、それ以外に対する対価である(炭素価格指数や債務者の収益性に連動している受取利息等)かの考慮の必要性(B4.1.8A項)。
・偶発的な事象の発生(例:企業が定めた目標炭素排出削減量の達成)により契約上のキャッシュ・フローが変化する場合(例:事象により契約に定めた利率分の金利を調整)、SPPI要件の充足に関する定性的評価や定量的評価の必要性(B4.1.10A項)。
(3)ノンリコース要素を含む金融資産の分類の明確化
この修正は、SPPI要件充足の検討の観点から、ノンリコース要素を含むローンと担保付ローンの違いを明確にしています。
キャッシュ・フローを受け取るという企業の契約上の権利が、特定の資産が生み出すキャッシュ・フローに限定されている場合、当該金融資産はノンリコース要素を有しています。例えば、A銀行がB企業にオフィスビルCの建設資金を融資し、その返済額は建設後にB企業が賃貸して得る賃料収入に契約上限定する規定を設けている場合、当該融資はノンリコース要素を有しています。仮にB企業からの返済が滞りオフィスビルCを処分したものの、ローン金額の全額までは回収できなかったとしても、A銀行はB企業のCオフィスビル以外の資産に対して返済請求権を持たない契約となります。
一方、担保付ローンでは、債務者が仮に担保を処分しても全額までは返済できない場合、残額は他の資産を処分してでも返済しなければならず、担保からのキャッシュ・フローに限定されない点に相違があります。
(4)金融資産の分類の明確化―契約上リンクしている商品
特定の取引において、企業はトランシェと呼ばれる契約上リンクされた複数の金融商品を用いて、金融資産の支払いに優先順位をつけることがあります。このような金融商品への投資が、SPPI要件を満たすかどうかを評価する際、IFRS第9号はキャッシュ・フローを生み出している金融商品の基礎となるプールを特定できるまで検討することを求めています。今回の修正では、契約上リンクしている商品の特性を明確化しています。
・トランシェ保有者への支払優先順位は、ウォーターフォール型支払構造(優先、劣後の関係)によって設定される(B4.1.20項)
・上記の支払優先順位の結果として、信用リスクの集中が生じる。原資産プールにてキャッシュ・フローが不足した場合、トランシェ間への支払いで不均衡な配分が生じる特性がある。
このような場合、あるトランシェの保有者は、発行者がそのトランシェよりも高い優先順位のトランシェへの支払のために十分なキャッシュ・フローを生み出した場合にのみ、元本及び元本残高に対する利息の支払を受ける権利を有する。これは当該トランシェがノンリコース要素を有していることを意味している(B4.1.20項)
・このような契約上リンクしている商品の場合、トランシェの保有者はIFRS第9号B4.1.17ではなく、IFRS第9号B4.1.21からB4.1.26を適用する。
IFRS第7号「金融商品:開示」
(1)その他の包括利益を通じて公正価値で測定(FVOCI)することを指定した資本性金融商品
FVOCI指定した資本性金融商品におけるその他の包括利益について、以下の開示項目を追加しています。
・当期中にその他の包括利益として表示する公正価値変動による利得または損失について、報告期間中に認識を中止した投資と報告期間の末日に保有している投資とに区分けした開示(11A(f)項)
・報告期間中に認識を中止した資本性金融商品に係る資本の中での利得又は損失の累計額の振替(11B(d)項)
(2)契約上のキャッシュ・フローの時期または金額が変化する可能性のある契約条件
偶発的な事象(基本的な融資のリスク及びコストに直接関係しないもの)の発生により、契約上のキャッシュ・フローの時期・金額が変化する可能性のある金融商品について、以下の開示を要求しています(20C項)。
・偶発的な事象の定性的説明
・偶発的な事象により変化する可能性のある契約上のキャッシュ・フローについての定量的情報
・契約条件の対象となる金融資産の帳簿価額の総額及び金融負債の償却原価
発効日
本修正は、2026年1月1日以後開始する事業年度より適用しなければなりませんが、早期適用が認められています(IFRS第9号7.1.12項及びIFRS第7号44LL項)。
IFRS解説文書はこちらよりアクセス頂けます(リンク先に移動します)。
基準の修正概要は以下の通りです。
IFRS第9号「金融商品」
(1)金融負債の認識の中止
金融負債の認識の中止は原則として決済日(義務の免責、取消し、失効等が生じた日)に行います。但し、電子送金システムを通じて決済する場合、以下の要件を充足すれば決済日より前に金融負債の認識の中止を容認する修正を行っています(B3.1.2A項、B3.3.8項)。
企業が支払指示を行い、かつ以下のすべての要件を満たしている。
・企業が支払指示の撤回、中止または取消しを行う実際上の能力を有していない
・支払指示の結果として、企業が現金にアクセスし使用する実際上の能力を有していない
・電子送金システムに関連した決済リスクが僅少である
(2)金融資産の分類の明確化―ESG連動要素を含む金融資産
金融資産の分類時に考慮すべきキャッシュ・フロー要件(当該金融資産の契約上のキャッシュ・フローが、特定の日に生じる元本及びその元本残高に対する利息の支払のみであるか:以下「SPPI要件」)の評価について、ESG事項に関連した金融商品に焦点をあてた修正を行っています。
ESG事項に関連する金融資産には、例えば契約で定める目標炭素排出削減量について、その債務者がその目標削減量を達成した場合に金利の調整が行われる商品があります。このため、SPPI要件の充足の有無に関して、以下の観点からの検討が必要である旨の修正を行っています(本解説文書で設例及びフローチャートを使い解説しています)。
・企業が受け取る利息について、当該利息は基本的な融資のリスク(信用リスク)及びコストに対する対価か、それ以外に対する対価である(炭素価格指数や債務者の収益性に連動している受取利息等)かの考慮の必要性(B4.1.8A項)。
・偶発的な事象の発生(例:企業が定めた目標炭素排出削減量の達成)により契約上のキャッシュ・フローが変化する場合(例:事象により契約に定めた利率分の金利を調整)、SPPI要件の充足に関する定性的評価や定量的評価の必要性(B4.1.10A項)。
(3)ノンリコース要素を含む金融資産の分類の明確化
この修正は、SPPI要件充足の検討の観点から、ノンリコース要素を含むローンと担保付ローンの違いを明確にしています。
キャッシュ・フローを受け取るという企業の契約上の権利が、特定の資産が生み出すキャッシュ・フローに限定されている場合、当該金融資産はノンリコース要素を有しています。例えば、A銀行がB企業にオフィスビルCの建設資金を融資し、その返済額は建設後にB企業が賃貸して得る賃料収入に契約上限定する規定を設けている場合、当該融資はノンリコース要素を有しています。仮にB企業からの返済が滞りオフィスビルCを処分したものの、ローン金額の全額までは回収できなかったとしても、A銀行はB企業のCオフィスビル以外の資産に対して返済請求権を持たない契約となります。
一方、担保付ローンでは、債務者が仮に担保を処分しても全額までは返済できない場合、残額は他の資産を処分してでも返済しなければならず、担保からのキャッシュ・フローに限定されない点に相違があります。
(4)金融資産の分類の明確化―契約上リンクしている商品
特定の取引において、企業はトランシェと呼ばれる契約上リンクされた複数の金融商品を用いて、金融資産の支払いに優先順位をつけることがあります。このような金融商品への投資が、SPPI要件を満たすかどうかを評価する際、IFRS第9号はキャッシュ・フローを生み出している金融商品の基礎となるプールを特定できるまで検討することを求めています。今回の修正では、契約上リンクしている商品の特性を明確化しています。
・トランシェ保有者への支払優先順位は、ウォーターフォール型支払構造(優先、劣後の関係)によって設定される(B4.1.20項)
・上記の支払優先順位の結果として、信用リスクの集中が生じる。原資産プールにてキャッシュ・フローが不足した場合、トランシェ間への支払いで不均衡な配分が生じる特性がある。
このような場合、あるトランシェの保有者は、発行者がそのトランシェよりも高い優先順位のトランシェへの支払のために十分なキャッシュ・フローを生み出した場合にのみ、元本及び元本残高に対する利息の支払を受ける権利を有する。これは当該トランシェがノンリコース要素を有していることを意味している(B4.1.20項)
・このような契約上リンクしている商品の場合、トランシェの保有者はIFRS第9号B4.1.17ではなく、IFRS第9号B4.1.21からB4.1.26を適用する。
IFRS第7号「金融商品:開示」
(1)その他の包括利益を通じて公正価値で測定(FVOCI)することを指定した資本性金融商品
FVOCI指定した資本性金融商品におけるその他の包括利益について、以下の開示項目を追加しています。
・当期中にその他の包括利益として表示する公正価値変動による利得または損失について、報告期間中に認識を中止した投資と報告期間の末日に保有している投資とに区分けした開示(11A(f)項)
・報告期間中に認識を中止した資本性金融商品に係る資本の中での利得又は損失の累計額の振替(11B(d)項)
(2)契約上のキャッシュ・フローの時期または金額が変化する可能性のある契約条件
偶発的な事象(基本的な融資のリスク及びコストに直接関係しないもの)の発生により、契約上のキャッシュ・フローの時期・金額が変化する可能性のある金融商品について、以下の開示を要求しています(20C項)。
・偶発的な事象の定性的説明
・偶発的な事象により変化する可能性のある契約上のキャッシュ・フローについての定量的情報
・契約条件の対象となる金融資産の帳簿価額の総額及び金融負債の償却原価
発効日
本修正は、2026年1月1日以後開始する事業年度より適用しなければなりませんが、早期適用が認められています(IFRS第9号7.1.12項及びIFRS第7号44LL項)。
IFRS解説文書はこちらよりアクセス頂けます(リンク先に移動します)。