「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の改正基準の公表について

Ⅰ.はじめに
 2022年10月18日に、企業会計基準委員会(ASBJ)は、以下の企業会計基準及び企業会計基準適用指針(以下合わせて「本会計基準等」という。)の改正基準を公表しました。
・企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」
・企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」
・企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」

Ⅱ.本会計基準等の公表の経緯
 2018年2月に企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等が公表されましたが、その審議の過程で、次の2つの論点については、企業会計基準第28号等の公表後に改めて検討を行うこととされ、これまで審議が行われてきました。
(1)その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分
(2)グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果
 今般、2022年10月18日開催の第489回企業会計基準委員会において、本会計基準等の改正基準の公表が承認されたことを受けて、本会計基準等が公表されました。

Ⅲ.本会計基準等の改正の概要
(1)その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分についての改正
 その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下「取引等」という。)が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等が課される場合があります。2017年に公表された法人税等会計基準では、当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等は、法令に従い算定した額を損益に計上することとしているため、取引等についてはその他の包括利益に計上される一方で、これに対して課される法人税、住民税及び事業税等は損益に計上されることとなり、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていない形となっていました。
 本会計基準等の改正では、法人税等の計上区分について原則と例外が定められ、これにより税引前当期純利益と税金費用との対応関係が明確になり、国際的な会計基準の処理とも整合する取扱いとなりました。

原則

当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益(又は評価・換算差額等)に区分して計上する。

例外

課税の対象となった取引等が、損益に加えて、株主資本又はその他の包括利益に関連しており、かつ、株主資本又はその他の包括利益に対して課された法人税、住民税及び事業税等の金額を算定することが困難である場合には、当該税額を損益に計上することができる。

 なお、例外の定めに該当する取引として、本会計基準等の検討開始時点では、退職給付に関する取引(確定給付企業年金の規約に基づき支出した掛金等の額が、税務上支出の時点で損金の額に算入される場合)が想定されています。
■重要性が乏しい場合の取扱い
 損益に計上されない当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等の金額に重要性が乏しい場合には、当該法人税、住民税及び事業税等を当期の損益に計上することができるとされています。
■金額の算定に関する取扱い
 株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等は、課税の対象となった取引等について、株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、課税の対象となる企業の対象期間における法定実効税率を乗じて算定することとされています。
 また、課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した額がゼロとなる場合には、株主資本またはその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができるとされています。
■その他の包括利益の開示に関する取扱い
 その他の包括利益の内訳項目から控除する「税効果の金額」及び注記する「税効果の金額」について、「その他の包括利益に関する、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金及び税効果の金額」に改正されています。
■本会計基準等の改正により影響を受けることが想定される企業
 その他の包括利益に対して課税される場合に、本会計基準等の改正の影響を受けることが想定されます。例えば、次のような場合が考えられます。
①グループ通算制度(従来の連結納税制度を含む。)の開始時又は加入時に、会計上、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額が計上されている資産又は負債に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合。
②退職給付について確定給付制度を採用しており、連結財務諸表上、未認識数理計算上の差異等をその他の包括利益累計額として計上している場合において、確定給付企業年金に係る規約に基づいて支出した掛金等の額が、税務上、支出の時点で損金の額に算入される場合。
 なお、株主資本に対して課税される場合については、従来から税効果適用指針等において取扱いが示されており、一部の場合を除き、本会計基準等の改正による影響はありません。
(2)グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果についての改正
 本会計基準等の改正では、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却(連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11))に係る税効果の取扱いについて、改正前の2018年税効果適用指針では、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正しないこととされていました。
 しかしながら、税引前当期純利益と税金費用を合理的に対応させることが税効果会計の目的とされている中で、2018年税効果適用指針での取扱いは、連結決算手続上、消去される取引に対して税金費用を計上するものであり、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していない形となっていました。
 本会計基準等の改正では、当該子会社株式等の売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額を取崩す取扱いに改正されています。
 具体的には、連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)、連結財務諸表において、次の処理を行うこととされました。

子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す。

購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等、法人税法第61条の11に規定されている、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由についての意思決定がなされた時点において、当該取崩額を戻し入れる。

子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異について、予測可能な将来の期間に子会社株式の売却(売却損益を繰り延べる場合)を行う意思決定又は実施計画が存在しても、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しない。

 なお、個別財務諸表上の取扱いについては見直さないこととされました。
■本会計基準等の改正により影響を受けることが想定される企業
 本会計基準等は、100%子会社を所有する親会社の連結財務諸表において、その100%子会社同士あるいは当該親会社とその100%子会社との間で、当該親会社あるいはその100%子会社が所有する子会社株式等を売却し、当該売却に伴い生じた売却損益について、グループ法人税制が適用される場合に、本会計基準等の改正の影響を受けることが想定されます。

Ⅳ.適用時期
 本会計基準等により、法人税等の計上区分(その他の包括利益に関する課税)については、その他の包括利益に対して課税される場合の会計処理などが変更になることから、一定の周知期間又は準備期間が必要となる一方で、早期適用への一定のニーズがあると考えられるため、本会計基準等は、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとし、また、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができることとされました。
 また、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについても、同様とすることとされました。
適用期間のイメージ(3月決算)

Ⅴ.適用初年度の経過措置
(1)その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分について
 法人税等の計上区分についての原則を、過去の期間に遡及適用することを求めた場合、財務諸表作成者に過度な負担が生じる可能性があるため、法人税等の計上区分については、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができることとする経過的な取扱いを定めることとしています。
(2)グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果について
 特段の経過的な取扱いを定めないこととしています。このため、本会計基準等の適用は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取扱い、新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及適用することとなります。これは、下記によるためとされています。
①本会計基準等の改正の対象となる取引は、売却元企業の税務申告書に譲渡損益調整勘定等として記載されているため、過去の期間における対象取引の把握は可能と考えられるため。
②会計処理については、購入側の企業における再売却等についての意思の有無により判断することになるが、この点についても、過去の連結財務諸表における子会社等に対する投資に係る一時差異への税効果会計の適用において、一定の判断がなされていたと考えられる。したがって、遡及適用が困難となる可能性は低いと考えられるため。

Ⅵ.関連する指針等の改正
 本会計基準等は、以下の日本公認会計士協会(JICPA)の実務指針等にも影響するため、同日、同協会より、以下の実務指針等の改正が公表されています。
・会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」
・会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」
・会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」
・会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」
・会計制度委員会「金融商品会計に関するQ&A」
 主な改正内容は下記の通り。

その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分に関する取扱い

本会計基準等では、税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)について、当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益(税引前当期純利益から控除)、株主資本及びその他の包括利益の各区分に計上することとされました。そのため、株主資本及びその他の包括利益の各項目(評価差額及び繰延ヘッジ損益等)について、従来、繰延税金資産又は繰延税金負債に対応する額を控除した金額を計上することとしていましたが、これに加えて、各項目に対して課税された法人税等の額についても控除した金額を計上することとしています。       

グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果に関する取扱い

本会計基準等では、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、連結財務諸表上のみ、売却時に税金費用を計上しないようにすることとされました。そのため、持分法適用会社における留保利益、のれんの償却額、負ののれんの処理額及び欠損金について、税務上の要件を満たし、課税所得計算において売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)に該当する当該持分法適用会社の株式売却の意思決定を行った場合には、税効果を認識しないこととしています。

適用時期
 関連指針等についても、本会計基準等を適用する連結会計年度及び事業年度から適用することとしています。

Ⅶ.現在開発中の会計基準に関する今後の計画
 本会計基準等の公表を受けて、企業会計基準委員会(ASBJ)から公表されている、現在開発中の会計基準に関する今後の計画について更新が行われました。
 現在開発中の会計基準は下記になります。
■開発中の会計基準
①リースに関する会計基準
→国際的な会計基準を踏まえ、借手の全てのリースについて資産及び負債を認識する会計基準について、2019年3月より開発に着手。現在公開草案の公表に向け審議中。
②金融商品に関する会計基準
→IFRS第9号「金融商品」を適用した場合と同じ実務及び結果となると認められる会計基準の開発を目的として審議中。
■開発中の指針
①金融商品取引法上の「電子記録移転権利」又は資金決済法上の「暗号資産」に該当する ICOトークンの発行・保有等に係る会計上の取扱い
→2022年3月15日に、「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」を公表。2022年6月8日にコメントを締め切り、現在、論点整理に寄せられたコメントへの対応を検討中。
②資金決済法上の「電子決済手段」の発行・保有等に係る会計上の取扱い
→資金決済法上の「電子決済手段」の発行及び保有等に係る会計上の取扱いについて、2022年8月より検討開始。
③子会社株式及び関連会社株式の減損とのれんの減損の関係
→日本公認会計士協会から公表されている会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」に定められる連結財務諸表におけるのれんの追加的な償却処理について、子会社株式及び関連会社株式の減損とのれんの減損の関係を踏まえ、2017年10月より検討を行っている。

Ⅷ.終わりに
 本会計基準等の公表により、当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて「損益」、「株主資本」、「その他の包括利益」に区分計上することになりました。
 また、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却について、連結財務諸表に税金費用が計上されないように見直しが行われました。
 今般の改正が適用されるのは、2024年4月1日以後開始する事業年度の期首からと、少し先ではありますが、各社におかれましては、新たな会計基準等が公表される都度、自社への影響についてご検討いただき、適切な会計処理が行えるよう備えていただければと思います。